推し黙る
飲食時に会話をしていて触れられたくない範疇の話題に至ったとする。すると話者やその場の参加者はその空気を察してその話をそれ以上続けずに話題を切り替えてくれることがある。それは気持ちの優しい集団の場合。
また教師が面談で生徒の意を酌もうとせず自分本位で馬鹿にするような話を振って来たとする。生徒としては「こんなに馬鹿にされたら話すことはない」と思って黙ることがあるだろう。すると教師は「まただんまりか。都合の悪いことは押し黙るんやね」という。このように押し黙るとは、黙られた側が相手をさげすんで使う。また、これが小説だとして、「生徒は教師の心無い問いかけに押し黙っていた。」と描写されるのだろう。しかし黙る側から私は押し黙っていますとは言わない。ならば小説においては相手の気持ちを推し量って黙ることなら推し黙ると書いてくれてもよいだろう。場の状況を判断して生徒に寄り添えることなら「生徒は教師の心無い問いかけに推し黙っていた。」で良いに違いない。
そして実際に冒頭のように自分から推察して話題を換えるべきことは実は多いと気づかされる。推し黙ることは人の痛みを知るやさしさに他ならない。