ケースと状態
はじめに
「配偶者以外を被扶養者とする場合で、配偶者が被扶養者でないときは配偶者の年間収入をご記入ください。」健康保険被扶養者異動届、国民年金第3号被保険者関係届にはこのような文言が記されています。
その意味は以下の通り。例えばあなたの子供を被扶養者にするときに、妻があなたの被扶養者になっていなくて単独の被保険者であるときには、妻の年間収入をご記入ください。なぜならあなたの子供は、妻とあなたのうちで年間収入の多い方の被扶養者になるべきだからです。それを判定するための年間収入の記入欄なのです。
謎の文言。
しかし上記文言を以下のように意味不明に感じるのは私だけでしょうか。「配偶者以外を被扶養者とする場合で」という第一番目の前提条件は、「配偶者は被扶養者になっていなくて、その他の家族が被扶養者になっている場合で」というようにその人の健康保険上の家族構成の「状態」を説明しているように読むこともできます。それなのに続く第二番目の前提条件が「配偶者が被扶養者でないときは」となると、第一番目の前提条件で既に除外されている配偶者が、第二番目の前提条件で再び「配偶者が被扶養者でないときは」と重複して除外されることになってしまいます。さらに追い打ちをかけるように「配偶者の年間収入をご記入ください。」と言われると、冒頭で配偶者を除外しておきながら、関係のない配偶者に対して何故そこまでこだわってくるのか?と意味不明に思えてきます。
誤解は着眼点の違い
しかし要は、「ケースと状態。」「フローとストック」の関係ということです。第一番目の前提条件は新たに発生するケースを表しています。つまりフローを表しているのです。しかし読み手によっては、既に存在している「状態」を表していると受けとめてしまうのです。つまり「ストック」を表していると感じてしまうということです。このフローとストックは、この書式の書き方にも表れています。例えば、既に子供が扶養家族になっており、新たに妻を扶養家族にする場合には、追加する妻だけを記入するのがこの書式の書き方です。それは流動部分について、フローに着目して記入させる書式ということです。しかし記入者によっては、異動届というものは、変化した結果を記入するのではないか?と考えるものです。つまり妻と、子供と両方を記入するのではないかという疑問が沸くのです。この書式には新たに追加する人や、新たに削除する人だけを書くとは、説明されていません。
明示が必要
加わる人だけ書く。外すひとだけ書く。というのはフローの視点だといえるでしょう。一方で異動後の状態を記入するのでは?と疑問に思うのは、変更後の状態、ストックの状態に着目しているからに他なりません。物事にはフローとストック、ケースと状態の捉え方が存在するのです。例えば税務で扶養控除等異動申告書という書式があります。この書式は異動後の状態に着目して、妻と子と両方が扶養家族であれば両方の名前を記入する様式になっています。行政の書式でも、着眼点が異なるものがあるのです。ゆえにフローなのかストックなのか。ケースなのか状態なのか。はっきり明示しなければ判断に迷ってしまうということなのです。
表現法ではなく考え方のヒント
しかし実務の現場では、結果的に何が異動するのか、異動した後にどうなるかというチェックが必要です。一人で作業をしていたとしても、ダブルチェックになるように、視点を変えた確認作業が必要になると思います。だからこそ書類一枚にも着眼点の違いが表れているのであれば大変興味深い事例だと思います。